2008年11月20日

「築いてゐた蜃気楼の消えるのを見て」

『宮澤賢治 あるサラリーマンの生と死』という本を読みました。とっても興味深かったです。彼がサラリーマンをしていた当時の時代背景は、金融危機の余波が日本に到達して、暮らしがきびしくなっていく頃。

宮澤賢治は、いろいろと仕事に関して葛藤があった人みたいでした。詩や童話を書いていればよかった、というふうでは全然なかった(生前は詩人・作家であることで生きていくことはできませんでした)。

いろんなことをやってみようとしたり、親のすねをかじることになったり、コミュニティの活動をしたり、病に倒れたり。。

紆余曲折を経て、最後、病気で亡くなるまでの日々は、ビジネスの世界へ。

彼のビジネスへの関わり方を読んでいて、これは、精神としては「スロービジネス」に近いなあ、と思いました。

利益主義、儲け主義ではなくて、人や土地を思いやる気持ちがなにより先行していたらしいからです。

売り上げを上げることに一生懸命でした。自分の体調が悪いのを押して営業にかけずりまわっていました。でもそれは、工場で働く人たちの暮らしのため、そして手がけている商品の石灰によって、不作がちな東北地方の土壌が、もっと豊かな土壌になっていくという大きなビジョンのためでした。

でもそのビジネスも、結局病弱な体がたたって最後には手を離すことに。

亡くなる10日ほど前に、かつての教え子に向けて書かれたという手紙が印象的でした。

僅かばかりの才能とか、器量とか、身分とか財産とかいふものが何かじぶんのからだについたものででもあるかと思ひ、じぶんの仕事を卑しみ、同輩を嘲けり、いまにどこからかじぶんをいわゆる社会の高みへ引き上げに来るものがあるやうに思ひ、空想をのみ生活してかえって完全な現在の生活をば味ふこともせず、幾年かが空しく過ぎてようやくじぶんの築いてゐた蜃気楼の消えるのを見ては、ただもう人を怒り世間を憤り従って師友を失ひ憂悶病を得るといったやうな順序です。

あなたは賢いしかういう過りはなさらないでせうが、しかし何といっても時代が時代ですから充分にご戒心下さい。

風のなかを自由にあるけるとか、はっきりした声で何時間も話ができるとか、じぶんの兄弟のために何円かを手伝へるとかいふやうなことはできないものから見れば神の業にも均しいものです。

そんなことはもう人間の当然の権利だなどといふやうな考では、本気に観察した世界の実際と余り遠いものです。

どうか今のご生活を大切にお護り下さい。上のそらでなしに、しっかり落ちついて、一時の感激や興奮を避け、楽しめるものは楽しみ、苦しまなければならないものは苦しんで生きて生きませう。

いろいろ生意気なことを書きました。病苦に免じて赦して下さい。それでも今年は心配したやうでなしに作もよくて実にお互心強いではありませんか。また書きます。

(『宮澤賢治 あるサラリーマンの生と死』佐藤竜一著より)

* * *

先日、ヘレナ・ノーバーグ・ホッジさんたちが作っている小さい映画の上映会(幸福のための経済〜“GDP成長”主義 から “幸せ主義” の経済へ、グローバリゼーション から ローカリゼーション へ)に行って、生きるということのどんなに隅々にまで、おおーきな「経済システム」の影響が行き渡っているか、を思いました。

物心つく前から、小さな子供たちの心にまで多(無)国籍企業の商品やそういうものに囲まれたライフスタイルへの憧れや欲望が植え付けられて。。

グローバルな経済システム、お金が行き来する物事に巻き込まれ、取り込まれて、お金をかせがなければ生きていけない、というふうに、地球上のみんながこの経済のシステムに依存するよう仕向けられていっていて。。。自給自足で暮らしていけていた場所でさえも、新たな市場を探す企業によってどんどんこのシステムに取り込まれていて。。

そして多くの国の政府が、巨大な多(無)国籍企業に有利な貿易規制や税制、補助金制度で、この経済のグローバル化を後押ししている。

この巨大なシステムがどういう仕組みになっているか、という「ビッグ・ピクチャー」を理解すること、そして、ローカルに自足する度合いを高めていくことが大切、ということみたいでした。。。

必要なものを自分たちの手でつくっていくこと。経済システムにまみれてしまわないこと。。

飽くなき欲求や、永遠のGDP成長神話を追いかけるかわりに、足るを知ること。。。「風のなかを自由に歩」いたり、手仕事の充実や、音楽や踊りや、人との有機的なつながりによって、こころを満たしていくこと。。。

今の金融危機は、「築いていた蜃気楼の消えるのを」見るように、方向転換するきっかけになるのかな。

posted by な at 21:46| Comment(0) | ねがいごと
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