用事があって少し前から関西に行っていました。ひさしぶりの関西行きだったこともあって、今回、用事が済んだその足で、なんとなく、京都の北部、美山を尋ねてみました。
京都近辺でテントを貼れるキャンプ場がないか調べていて、たまたま見つかった美山自然文化村というところ。そこを通じて、京大が研究目的で管理している芦生原生林のことを知り、行ってみたいなあと思ったものの、一般の人が入るには制限のある森で(1人での入山禁止、あるルートからの入山禁止など)、地元のガイドさんと行かないとヘタすると迷うとも聞き、なにより市バスでのアクセスがむずかしく、なんとか行きつけても帰るのが無理とわかり、あきらめていました。
せめてこのエリアの雰囲気だけでもあじわえれば、と思って、自然文化村まで行ったのだけど、夜になって、むくむくと、「やっぱり芦生の森に行きたいな、なんか手段はないものかな」という想いが湧いてきました。
ネットでバスの時刻を再確認。でもやっぱり朝8時に自然文化村を出て芦生の森の入口まで行くはバスはあったけれど、帰りの便は夕方までなく、それだと次の予定に間に合わなくなるのでした。帰りの手段が他にないか、フロントできこう!と思ったけど、もうフロントの窓口時間も過ぎていた。。。
とにかく明日、早起きして聞いてみよう、と決めて、早く寝床に入り、翌朝いちばんにフロントへ。でもやはり帰りの足はタクシーしかないこと、車で30分以上かかること、山奥なので通常のタクシー料金のようにはいかないことを教わりました。
ひるんだけれど、せっかくここまで来たのだしと思って、帰りのタクシー代のことは腹をくくって8時の市バスで森に向かうことにしました。やってきたバスは小さなバンで、乗客はわれわれのみ。運転手さんに、帰りの便はやっぱり夕方までないですか?と聞いてみたら「オンデマンドバスがありますから、乗りたい便の1時間前までに予約してもらったら乗れますよ」と、停留所にオンデマンドバスの時刻表と予約先の電話番号が書かれているのを教えてくださいました。
森の入口に一番近いバス停で降り、「芦生山の家」という建物を尋ねました。早朝なのに、おじさんが3人いて、森の中の地図もここで販売されていました。少しお話を聞いてから、気をつけて、楽しんでいらっしゃい、と言われて出発。
入山届を書き、芦生の森に入りました。昔のトロッコの線路があって、そこをずっとたどりました。奥へと行くと、灰野という場所に出ました。ここはかつて「山番」として派遣されてきた人たちの集落があった場所だと看板に書いてありました。
後で調べてみると、芦生の森には、「古くから材木の伐採や炭焼きに従事するために、山中には源流域の谷筋を中心に後の知井村を構成する九つの字から移住した山番が住みついていたほか、用材を求めて山中を移動する木地師が住みついており、木椀や盆などの木材加工品を製造していた」のだそうです。
春に、森の中のオープンエアの工房で生木の木工・グリーンウッドワークをされているマイクさんを訪ねてイギリスに行ったけれど、その前に、すでに日本にも、森の中でその場で木を調達してろくろ形式で削り出し、器をつくる木地師がいたことを、頭では知っていました。でも今回は、その木地師が活動したフィールドに、知らぬ間に入っていたのでした。
イギリスには、かつて森の中で活動したbodgerという木工びとがいて、彼らは手動のツールばかりを使い、ポールレーズとよばれる木をけずる足踏みろくろで、生木を加工して器などをつくっていたんだそうで(マイクさんは、この足踏みろくろを文献の記録から再現して、現代によみがえらせた人)、日本の木地師とやっていたことはほぼ一緒だったもよう。
それだけでなく、マイクさんのところで使っている砥石も、刃物のいくつかも日本製だったり、グリーンウッドワークで使うドローナイフというイギリスに古くからある刃物とそっくりの銑(せん)という刃物が、日本の伝統にもあることや、木を割るときに使うフローという刃物にそっくりの万力と呼ばれる刃物(別名へぎ鉈、かぎ鉈、榑秕鉈、木割鉈)が飛騨高山で古くから使われていたこと。いろいろ重なりが多いのでした。イギリスの森を経由してまたびゅーんと、日本の森へと、導かれて戻ってきたかのようです。
* * *
芦生の森は、もっとずっと奥深くへ行くと、二次林でない天然林のエリアに出るのだけれど、われわれが歩いたのはほんの入り口のエリアです。それでも、見たことのないふわふわの苔がいたり、紅葉が少し始まっていて、美しかった。
川の水も澄んでいて。なるべく足元を荒らしてしまわないよう気をつけて歩きました。
お昼過ぎに森を出て、道路へ出ると、タクシーが一台向こうからやってきて、「(な)さんですか?」と女性ドライバーが。びっくりして返事をすると、「オンデマンドバスです」とのこと。バスと言う名前だったから、バスがくるのだと思っていたらタクシーだったので驚いていたら「みなさん、おどろかれます、はい」とのこと。聞くと、火曜木曜のみ、昼間のバスを運休させて、乗る人があるときだけこうしてタクシーが代行しているのだそう。奥地に暮らすお年寄りの通院の足となっている、とのことでした。料金は地方自治体が補助金を出してタクシー会社と契約している関係で、バスの運賃と変わらず。タクシー自体は隣町からかなり時間をかけて走ってくるのにもかかわらず、森の出口から30分以上乗って、一人250円と、なんと行きの市バスで同じ道を走ったときの運賃よりさらに安かったのでした。
相方と2人、貸切乗車になったので、運転手の女性にこのあたりの暮らしについてお話を聞くこともできて、さらにありがたかったです。
自然文化村も、とってもいいところで、レストランのコーヒーもケーキも食事もとってもおいしかったし、宿泊させてもらった河鹿荘という宿も、スタッフのみなさん感じのよい方ばかりで、居心地よかった。。。この宿の名前は、てっきりこのあたりに暮らす鹿に由来しているのかと思っていたら、宿の前に流れる川に住むカジカガエルに由来していました。
カジカガエルは、相方が特に大好きなカエル。カジカガエルの鳴く季節には、わざわざ高尾山に会いにいくほど好きなのでした。美山の川にもカジカガエルがいるとわかったので、また、カジカガエルの声がきける季節に、今度はテントをかついで来れたらよいなあと思いました。
そしていつか、芦生の天然林のブナの木たちに会いにいけたら、うれしいな。。。